グラスホッパー

大ヒット上映中!

伊坂幸太郎から原作を託された瀧本監督の挑戦

 伊坂幸太郎にとって11作目の映像化となる著書「グラスホッパー」は、140万部を突破するベストセラー小説。発売から今年で11年。過去に何度も映画化の話は浮上するも、登場人物3人の物語がパラレルで進行する伊坂幸太郎独特の世界観を、映像化するのは困難とされ、実現されていなかった。
 情報が過密になり、息苦しささえも感じる今の時代だからこそ、この伊坂幸太郎の“殺し屋”シリーズ【「グラスホッパー」・「マリアビートル」】を映画化したいと熱望した制作陣は、何度も伊坂氏のもとを訪ね映像化を交渉。そして何度目かの訪問時に伊坂氏が『脳男』や『犯人に告ぐ』の瀧本智行監督だったら、この世界観を実現できるのでは…と話があがり、映像化の話は急展開。脚本を担当した青島武氏作成の映画版プロットを見て、伊坂氏は原作の設定変更も快諾、企画が動き出した。

 とはいえ、映像化困難と言われてきた作品であることに変わりはなく、瀧本監督にとっては嬉しさと同時に計り知れないプレッシャーものしかかる。この小説を映画化するにあたって何を大切にしなくてはならないのか──監督がこだわったのは“キャラクターの魅力”と“ストーリーの疾走感”。伊坂作品の独特なあの文体を映像にすることは難しくても、小説「グラスホッパー」の持つ2つの魅力を映像の支柱にすれば世界観を損なわずに表現できるのでは?と考えた。結果、原作の持つ次々とページをめくりたくなる様なテンポ感で、主人公の鈴木が事件に巻き込まれていくスリリングなストーリー展開を映像化することに成功。編集においてはカット尻をいつもの半間短くする作業を、音響においては打楽器をメインに音の緩急を出す等、様々な工夫を凝らしている。ちなみに瀧本作品でリズム系の音楽を使ったのは今回が初めて。

生田・浅野・山田をはじめキャスト全員がハマリ役!

 『脳男』に続いて瀧本作品の主演を任されたのは、生田斗真。監督は「斗真は作品に対する取り組みがすごく真摯で作品を背負う意識のある俳優。彼とならこの作品をやれる」と絶対的な信頼を持って彼に鈴木役をオファーした。鈴木というキャラクターは頼りなくて情けない、巻き込まれ型の男。『脳男』とはまったく違う役どころだが「斗真自身の素の魅力を出せればこの作品はいける」と、監督はじめ制作陣は何ひとつ心配していなかった。その期待通り「こんな生田斗真は見たことがない」と見とれてしまう、誰もが共感するであろう“鈴木”をつくりあげたのだ。濃いキャラクター達の中で、唯一人間的な“鈴木”という役どころを、圧倒的存在感を出しながら見事に演じきった。生田の人の良さが鈴木の人の良さとあいまって、愛すべき“巻き込まれ型”のキャラクターが誕生した。

 憂える自殺屋、【鯨】というキャラクターは、リアルとファンタジーの間に立っても違和感のない俳優に演じて欲しいという瀧本監督と制作陣の希望があった。名前が挙がったのはただ一人、浅野忠信。「この役を演じられる人はそう滅多にいない。自殺屋という特異なキャラクターを自然に演じられるのは浅野さん以外に考えられない」と、一本勝負に出た。何故、浅野忠信だったのか。その理由を監督はこう説明する。「この映画凄いなと感じた作品には決まって彼が出ている。映画の申し子というか、カメラの前に立った瞬間に風が吹く、圧倒的な存在感がある」。これは、本作のなかにも勿論映し出され、哀しみと孤独の表現、またラストでみせるアクションまでを、瀧本監督が絶賛する通り、圧倒的存在感で、見事に演じている。

 若き殺し屋、【蝉】に大抜擢されたのは山田涼介。主演作『暗殺教室』が記憶に新しいが、撮影は本作『グラスホッパー』が先行して行われた。記念すべき映画デビュー作で山田が挑まなくてはならなかったのは、アイドルとしての笑顔を封印し、“孤独な殺し屋”として狂気を放つこと。これまでの彼の印象からは全く想像のできない難しい役どころだったが、「彼はこれからの日本映画を背負って立つ俳優、最大の発見だ。」と監督を驚かせた。変幻自在な演技をする村上淳の相手役としてのバディ感もいい。アクションについては「もともと運動神経がいいので心配していなかった」という期待を優に超えてみせ、俊敏で華麗なアクションを披露している。ラストの鯨との対決シーンでは、浅野忠信を相手に堂々と蝉を演じきった。

 また、「日本映画のなかで信頼できる女優のひとり」と監督の絶大な信頼に応えた麻生久美子。すべての人に共感される人間味と透明感のある波瑠。美貌とスタイルを持ちながらもその逆を演じ女優の幅を広げた菜々緒。『傷だらけの天使』のような昔のハードボイルドに現代らしさを添え「ものすごいバランスで演じてくれた」と監督を唸らせた村上淳。原作にはないオリジナルキャラ“鯨の父の亡霊”を「説明なしに体現してくれた」という宇崎竜童。想像もつかない静かな狂気で殺し屋のひとりを演じた吉岡秀隆。悪役を演じたら右に出る者はいない石橋蓮司──ベストキャストが揃っているのも見どころだ。

どうやってあの渋谷スクランブル交差点をつくりあげたのか?

 渋谷のスクランブル交差点が物語の中心になっているが、世界有数の人口過密都市といわれる渋谷で、いったいどのように撮影されたのか?─と、映像に驚かされるだろう。
 千葉県市原市にある元ショッピングモールの広大な駐車場に、渋谷スクランブル交差点の道路、TSUTAYAの一階部分、地下鉄の入口、交番横のカレー屋などが現寸大で再現された。美術デザイナー・平井淳郎が手掛けたセット、渋谷スクランブル交差点の全アングルを撮影した撮影監督・阪本善尚 ―渋谷に通い詰め、街のライティング(街灯や4基の大型ビジョンの明かり)を正確に再現―、それらをみごとに合成させたCGチーム、実力ある職人たちの技によって東京のど真ん中で撮影したかのようなリアリティある映像が出来上がった。
 近年盛り上がりを見せている“ハロウィン”から物語が始まるのも現代らしい。2014年10月31日には、実際にハロウィンで人が殺到する渋谷の実景を撮影、合成により一層リアルな映像に仕上がっている。
 実際の渋谷とロケセットにより、“グラスホッパー(=トノサマバッタ)は密集して育つと、黒く変色し、凶暴になる。人間もしかり”という、この映画の根底にあるテーマ、群衆のなかから狂気が生まれる瞬間がカメラに収められた。
 また、最後まで瀧本監督の頭を悩ませたのは、主人公・鈴木の宿敵─寺原Jr.が車に引かれるシーン。実際の事故映像を参考にリアルかつ映画的なシーンにするため試行錯誤を繰り返した。ギリギリまで悩み粘る監督、その高レベルな注文に応えるCGチーム。彼らの意地を見せたシーンでもある。

リアリティとファンタジーを絶妙に融合させたセットの数々

絶妙に融合させたセットの数々
 リアルを追求した渋谷の街とは対照的に、その街に点在するキャラクターたちの生活空間はリアル以上ファンタジー未満、絶妙な空間が求められた。特にこだわったのは蝉の相棒である岩西の事務所、鯨が暮らすキャンピングカー、そしてラストを飾るアクションシーンの舞台となる寺原会長が仕切る悪の組織のアジトのセットだ。アジトに関しては、昔の日本映画のアクションシーンを彷彿させる廃墟のようなセット、という瀧本監督の望み通り、美術デザイナーの平井氏により、角川大映スタジオをフル活用しつくりあげられた。「この映画の世界観を支えているセット、知恵と汗と涙の結晶」と監督も大満足する環境で撮影が行われた。

聞き手:新谷里映